「かしこいクルマの使い方」講座vol.8
クルマと暮らし
東京工業大学教授 藤井聡(ふじい・さとし)

 「かしこいクルマの使い方」も、今回で最終回。今までクルマのいろいろな面について考えてきましたが、今回は改めて、クルマと私たちの暮らし全般について考えてみたいと思います。

 “クルマが環境に悪い”ことは、しばしば耳にします。排気ガスは、大気汚染や地球環境の問題ともつながっています。もちろん、これらはとても重要な問題ではありますが、“大気”や“地球”というスケールの事柄は、日常生活の中では、正直、あまりピンとくるもので無いかも知れません。

 しか し、じっくり考えてみれば、クルマの問題はそういう“大きなスケールの問題”だけではないようです。クルマにばかり乗っていると、“歩く”ことが少なく なって、“健康な生活”が少しづつ阻(はば)まれてしまいます。クルマばかりに乗っていると、お洋服に気をつかわずに出かける回数が、ついつい増えてしまいます。クルマにばかり乗っていると、鳥や虫の声や、季節の移り変わり や花の香りを感じる機会が少なくなってしまいます。クルマばかり使っていると、知らず知らずのうちに、道路は渋滞し、バスや電車など“みんなの交通手段” は姿を消していきます。そして結局は、長い年月を経て、“街のたたずまい”は、昔とは似ても似つかない殺風景なものに様変わりしてしまうかもしれません。

 もちろん、これらは全て、今日、あなた一人がクルマを乗ったから生じる、というようなものではありません。しかし、“少しずつ”、そして、“確実に”生じてしま う問題でもあるのです。

 クルマほど便利な手段は、今のところどこにも無いでしょう。でも,その便利さを追い求めているうちに、かえって豊かな暮らしが蝕(むしば)まれていることがあるとしたら???。クルマと“かしこく”お付き合いしていくためにも、時には、日々の暮らしぶりを振り返ってみることも、いいことなのかもしれませんね。


<ふじい・さとし> 東京工業大学 教授.1968年奈良県生、京都大学 卒業.フジテレビ 「交通バラエティ・日本の歩き方」2003〜2004年を監修・出演.JAFMATE「交通百葉箱」2001〜2002年に連載.主著「社会的ジレンマの処方箋」
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